Vegetable Producers2018.09.12

レストランひらまつ 広尾で使う野菜の種類は実に数多く、他ではなかなか食することができないものも多くある。シェフ平松こだわりの逸品ばかりだ。
なぜそのような素晴らしい野菜が手に入るのか。そこには秘密がある。
味わいや大きさ、熟成度合いなど、シェフ平松の細かな要望に耳を傾け、それに応えようと、不屈の精神でトライアルを続ける農家が存在するのだ。
その一つが、三水さんの営む「グランジャ」という農場。農場と書いたが正確には出荷をするための農場ではなく、これまであまり生産されていなかった野菜をテスト的に生育させ、その育て方や収穫時期を試す研究所のようなところ。ここではヨーロッパ系の野菜を主として育てている。

「日本ではあまり生産されていない野菜を使いたいと思ったときに、まずは三水さんにお願いします。僕は味はもちろんのこと、大きさ、そして育て方にもこだわりたい。三水さんは同じ想いをもって取組んでくださる方。」と、シェフ・平松大樹の強い味方と言える。
このグランジャで育て方が決まり、次は生産農家の農場で本格的に育成するという流れがあるからこそ、生産農家も珍しい野菜に取組めるのだ。

「研究のために実際のヨーロッパの農家ではどう育てているかを見に行くこともあり、それを日本の風土の中でどう育てるかを考えます。実際に出荷できるまでには数年かかることもあり、大樹シェフの要望もあくまで自然農法にこだわっているので、土壌から考えなければならないこともあります。」と三水さん。

三水さんの研究結果を受け、さらに実際の農業スタイルに近い状態で育てているのが「安曇野スカイファーム」の百瀬さん夫妻。
普段は夏秋イチゴの生産農家として日々忙しく果物の生育を見守っている一方で、グランシャからの依頼により遊休地を使って様々な野菜を自然に近い状態で育てることにトライしているのだ。一見、雑草が生えているように見える農地は、そこかしこにズッキーニや色々な種類の茄子、ビーツなどが元気に育っていて、野菜の生命力の強さに驚かされる。

「このようなナチュラルな状態で育った野菜たちは力強く味も深く、料理のインスピレーションが湧いてきます」というシェフ平松の言葉通り、その場で生をかじった美味しさは格別だ。
ただ、野菜の生育を定着させるのには時間がかかり、アーティチョークなどは出荷できるまで、約2年はかかったと言う。


「自然な状態で育つ野菜の力強さは特別だと思います。この野菜の力強さを生かした料理が楽しみですね」。百瀬さんご夫妻の想いが込められた一皿に、いやが上にも期待が高まってくる。

もう一軒、若き生産者大沢さんの「麦ダンス農園」では、レストランで主役級の料理になる花ズッキーニを育てている。
「この夏は極端に雨が少なかったこともあり、細心の注意を払って育てています。」という大沢さんの言葉通り、この地方では一ヶ月も雨が降っていないという。昨年は台風に襲われたりと、野菜の成長は天候という自然との闘いでもある。しかも高原で育てるズッキーニは受粉の時間が限られていて、その時間帯は雨も禁物だ。

「雨が降らないので、育苗の段階から地質にあった粘土質の高い土で育てることで、植え替えたときにも強い根をはることができるなどの工夫をしています」
天気との闘い、地質との相性、様々な工夫を凝らしながら粘り強く野菜と向き合うことで初めて素晴らしく美味しい野菜が生まれるのだ。
ジャズを聴きながら苗を育てる若者たちの、その苦労さえ感じさせない笑顔が印象的だった。

力強く本来の滋味溢れる味わいを持つ野菜たち。その野菜がレストランに届くまでの裏側には、農家の人々の日々の研究や愛情を注いだ慈しみの時間がある。
レストランひらまつ広尾で供される野菜は、そんな農家との共同作業で生まれた宝といっても過言ではない。